楽器の演奏や裁縫、書き物など複雑で正確なことが要求される物事を長時間続けることにより、手首、指が疲労していきます。すると手首、指の関節、筋肉が炎症し、痛みとして発症します。
手首・指の痛みが出やすい職業としてはピアニスト、ギタリスト、美容師、書道家、画家、システムエンジニア、調理師など手首、指を酷使する方に多く見受けられます。また、産後の女性にも多く見られます。
『それは、関節内の骨の動きを調整し、それを包んでいる
”関節包”という薄い膜をゆるめ、膜に付く痛みの神経の興奮を抑えるからです
』
≪関節包が痛みのコントロールをしている≫
痛みを出す神経は、骨や軟骨には存在しません。
痛みを出す神経は、関節を包んでいる“関節包”に存在します。この関節包は、強い力で矯正を行うと、膜が傷つき、逆に痛みが強くなる可能性があります。ですから、数ミリという繊細で細かい関節内調整を行うことにより膜をゆるめ、痛みの神経の活動を抑えることにより、症状は改善していくのです。
≪関節の構造≫
関節とは骨と骨の連結の部分を言います。この関節は、筋肉が伸び縮みした際に一緒に動き、関節が動くことにより手や足、腰など身体を動かすことができるのです。この関節の中をのぞいてみると、筋肉の下に関節包という薄い膜があるのがわかります。この薄い膜の働きが重要です。なぜならば、関節をコントロールし、細かな小さい動きを作り出しているのがこの関節包だからです。
≪関節包が小さく細かな動きのコントロールをしている≫
筋肉は、そのパワーによって大きな動きを作り出しますが、ボールを投げる際の肩や肘の複雑な動き、楽器を弾くしなやかな美しい指の動きなど小さく細かな動きが可能なのは、この関節包が動きの幅を調整しているからなのです。
≪関節包が関節の潤滑剤を作り出している≫
また関節包には、もうひとつ重要な役割があります。それは関節の栄養剤である滑液という液体の潤滑剤を作り出していることです。この滑液は、よく耳にするヒアルロン酸を多く含んでいて、この液体により関節の摩擦を減らし、関節がなめらかにしなやかに動くことを可能にします。
そしてこの滑液は、血管がない関節軟骨に栄養を届け、軟骨の育成もこの液体が担当しています。この滑液が少なくなると軟骨に栄養が行き届かず、関節の動きは硬くなり、身体はうまく動くことができなくなってしまうのです
≪関節包は身体の使い過ぎや疲労で硬くなる≫
この関節にとって重要な関節包ですが、身体の使い過ぎや疲労、睡眠不足や栄養不足など身体に負担がかかった状態が続きますと、機能が低下し硬くなります。硬くなった関節包は、痛みの神経を刺激して、痛みが発生する原因を作り出してしまうのです。
≪関節包をゆるめるには、マッサージやストレッチでは刺激が届かない≫
この硬くなった関節包をゆるめるにはどうしたら良いでしょうか?
関節周りをマッサージしても、ストレッチをしてもなかなか変化しません。なぜならば身体の深い所に存在しているからです。通常のマッサージやストレッチでは、深部にある関節包まで刺激が届きません。
そこでどんな方法で関節包をゆるめるかと言いますと、関節内を繊細に丁寧に調整して、関節包を傷つけないように刺激を与える。これが関節包をゆるめる唯一の方法なのです。そこで、関節の中での骨の動きに着目しますと、関節包内運動という動きを起こしていて、これを調整することにより同時に関節包がゆるんでくるという事実があるのです。
≪同じ骨なのに、先端と真ん中では異なる動き方をする、関節包内運動とは?≫
関節を動かす時、関節包の中の骨は、外の動きとは全く別の動き方をしています。例えば腕を上げる際、腕は上がっていきますが、関節包の中の骨は数ミリ下に下がります。腕は上がるのに、関節包内の骨は下がっているという全く別の動き方をしているのです。
≪関節包内運動を整えると関節包が大きく緩み、症状が改善する≫
この関節包の中で起こっている別の動き方を関節包内運動と呼び、この動きを整えるのが治療の核であり、目的となります。なぜならば、関節包内運動を整える時、関節包が最も速く最も大きく緩むからなのです。
ただし、この関節包内の小さな細かい運動を把握するには、強い力で行うと全く触知できません。また、熟練した腕がないと、これもまた関節包内運動の触知は難しいのです。包内運動は数ミリの出来事なので、施術者には高い技術力と集中力が求められます。
関節包内運動の調整をしっかりと行うと、関節包は縮んだり、伸びたり、ねじれたりして、まるでマッサージされているかのように刺激が加わり柔らかくなっていきます。これにより痛みの神経の興奮が治まり、痛みが緩和されていくという仕組みです。
また関節機能向上マッサージで、手首周りの筋肉を柔らかくし、手首、指関節が楽に動くよう緩めます。特に指の付け根についている筋肉が硬くなると、指は曲がったまま伸びなくなりますので柔らかく保つ必要があります。
これら関節と筋肉両方を調整することにより、手首、指の関節が正常に動くようになり、関節を動かしたときの痛みは消えていきます。
手関節について

(手の甲にも関節包がありますが、割愛させていただきます)
手関節とは、いわゆる手首と言われている部分になります。この手関節は、2本の大きな骨である橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)とさらに8個の骨である手根(しゅこん)骨から成り立っています。関節包は、この三か所を取り囲むように付着しており、手首の柔軟な動きに耐えられるよう作られています。
≪手首は指先1個分位の小さな骨8個で作られています≫
手首が手根骨という小さな小さな骨8個で作られているなんて、想像もつかないと思いませんか?大きな骨が、ドアの蝶番のように繋がっていそうなものです。しかし、この8個の骨があるおかげで手首の微妙な細かい動きが可能となるのです。
≪小さな8個の骨も数ミリ動きます。数ミリ動かないから症状が出るのです≫
この8個の骨もわずかに数ミリですが動きます。特に、橈骨と連結している部分はよく動きますが、その他の手根骨同士が連結している部分もわずかに動きます。このわずかな動きが出ないために、手首が痛い、指が痛いなどの症状が発生するきっかけとなることは多々あります。
≪治療では、この小さな骨を触り分けられるかがポイントです≫
治療では、この1つ1つ形が違う手根骨を触り分け、どの手根骨の動きが悪いかをチェックし、チェックと同時にそのまま調整します。検査をしながら、治療も同時に行っていく訳です。特に橈骨と人差し指の間の手根骨はゆがみやすく、ここを治療することにより、手首だけでなく指の症状(腱鞘炎やばね指など)も解消することが可能です。
手関節の治療では、この手根骨をいかに触り分けることができるかが肝となります。手根骨1つ1つは、大体施術者の指先1個分の大きさです。なので、少しポイントがずれるだけで狙っている骨と違う骨を触ってしまっていることになり、治療効果が全く違ったものになってきてしまいます。細心の注意を払い、手根骨1つ1つを丁寧に施術してあげることができたならば、手首と指の症状はみるみるうちに取れていくこととなるでしょう。